横浜ボートシアター「洞熊学校を卒業した三人」無事終了。そして……

創作影絵人形芝居「洞熊学校を卒業した三人」が台風の直撃を避け無事に終了した。今回は広報面で予定通りにいかず迷惑をかけたが、関係者の方々のご尽力で全日満員御礼となって良かった。個人的には反省することが多いし残務もまだあるので、その辺の整理をつけて気持ちよく次の公演に向かいたいところである。Twitterとかでも既に申しておりますが、重ね重ねご来場いただいた皆様、関係者の皆様ありがとうございました。

次に控えた公演は9月1日の一人語り「にごりえ」である。「にごりえ」は数えたら今まででちょうど10回やっていた。つまり次は11回目である。一葉作品では多分一番やっていると思う。次が「十三夜」と「大つごもり」だろうか。全部好きな作品なのが嬉しい。

実は語りに音をつける仕事で、構想の段階では自分は音読をしない。なぜなら演者が語っているところを想像し、それにどんな音をつけるかということを考えながら読むからだ。そういう読み方をする時、自分の声は邪魔になる。

しかし、今回は気分転換ということで、まずは自分で声を出して「にごりえ」を読んでみた。

実はまだ半分くらいしか読んでない(全部声に出すと2時間くらいかかる)が、それでもやってみると黙読の時よりも内容がよく頭に入ってくる。そして、結果的にいくつか新たな音のアイディアを思いついた。読解が深まったせいか、それとも少し経験を積んだせいか?

自分が妙にこだわっているところや無意識的な癖は、マンネリに繋がりやすい。なんとなく気分が乗らない時などは意識して当たり前だと思っていることを変えてみると良い(かもしれない)。

さて、「にごりえ」について本当に書きたいのはここからで、それも自分の私的なメモである。せっかくだから、「にごりえ」に止まらず一葉作品の語りに対する今までの音作りの変遷を軽くメモしたい。

GR-55期

GR-55はRolandのギターシンセ。GKピックアップという専用のピックアップをギターにくっつけると各弦独立に演奏情報を拾ってくれる。その演奏情報を恐らく内部でMIDIデータに変換し、内部音源を鳴らすことができる。MIDI OUTもあったのでやりたければ外部MIDI音源も鳴らすことができる。

僕はGR-55のシンセ音源部分もまあまあ気に入っていたが、より気に入っていたのはモデリング音源である。ギターの生の音をハイレスポンスで他の楽器の音に変えるというものだ。レスポール、フェンダー、テレキャス(あったっけ?)等々の様々なエレキギターのモデリングに止まらず、アコギ、バンジョー、シタールなんかもあった気がする。しかもこのモデリング音源はオクターブシフトさせたり、もっと細かい音程の調整もできたように思う。死ぬほど作りこめるので、熱意に溢れている若者はぜひ一度触っておくと良いと思う(笑)内部エフェクターや音源のルーティングの融通がかなりきいたので、自分の音を作りたいという人はぜひ。

僕は本当にこのモデリング部分を気に入っていたので、のちにその機能だけ取り出したエフェクターも登場して、その時は買おうかどうか迷ってくらいである。

しかし、ある日、楽器屋に売ってしまった。なぜか……。それはGKピックアップがすぐに断線してしまうこと。そして、何よりもベロシティの感度の甘さ。強弱は演奏においてかなり大事な要素だ。自らのレベルアップを図るため、音色のバラエティや独自性を犠牲にしてでも演奏のレベルをあげるべきだと思った。語りというものとどう関わっていくか、という問題に対する一つの賭けであった。

GR-55を語りに使ったことで覚えているのは「軒もる月」だ。当時は影絵の「極楽金魚」をGR-55でやっていて、その流れで同時上演する語りにも使ったのだった。群馬などで使用した記憶がある。

M13期

M13はLINE6から出ている大仰なマルチエフェクターである。でかくていかにも堅牢そうな見た目をしている。4つのFXチェーンから自由にエフェクトを組み合わせて音作りができる。変態っぽい音が作れそうで期待したのだが、意外とスタンダードな音だった。次善の策としてM13にありがたくも付いているエフェクトのセンド/リターンを用いて変態的なエフェクトを挟むことにした。Red PandaのParticleとかをよく使いました。

他にもこの時期は色んなペダルをくっつけた。BOSSのOD-2、Empress EffectのEQ、MXRのEQ、SONUUSのVOLUUMなどなど。どんなシグナルフローだったかは忘れてしまった。

このシステムは「にごりえ」の初演以降しばらく使った。そして、この頃から歪ませるよりもクリーントーンで弾くことが圧倒的に増えた。

Guitar Rig(PC) 第1期

Guitar Rigはライブじゃ使えない、ってよく言われるじゃないですか。だからずっと使わないでおいたんだけど、どうせスタンダードな形で使うわけじゃないんだし、他の人が使えないというんだったらある意味チャンスじゃないかということで使い出した(ペダルボードだと荷物が増えて大変だというのもあった)。

Guitar Rigは恐らくM13よりは変態系な音が簡単に出せる。特にプリセットを用意すれば。しかし、使い慣れないうちは、声との帯域の被りをどうするかという問題と、ダイナミクスの問題という、二つの悪魔との格闘であった。

声との被りは前々からEQでなんとかしていた。この時もGuitar Rigに付属しているパラEQやグラEQでなんとかしていた。しかし声と喧嘩しないように大きい音を出すためにはどうにもショボい音を強いられてしまって、かなり悩んだものである。

先の問題が解決したきっかけは残念ながらはっきりとは思い出せない。しかし結論から言えば、自分の演奏技術の向上と、語り手の声の変化が大きかったように思う。それら二つの要因がきっかけとなり、自然と次のフェーズへと移っていった。

Guitar Rig第1期の状態で演奏していたのは意外と最近までで、恐らく2018年12月が最後である。一応現状関わった樋口一葉語り作品全ては一度このシステムで演奏された。

Guitar Rig(PC)第2期

Guitar Rig第2期の直接的なきっかけは、記憶が曖昧だが恐らく稽古中に「もっと出すとこは出してくれ」と言われることが増えたことにあるように思う。主張の強い音を出すためには、今まで削りまくっていた中低域をフラットに近づけることくらいしかなかった。そんなわけで、段々とEQの設定が変わっていき、ついにはほぼフラットになってしまった。以前からすれば全く考えられない変化である。

何故こんな変化が訪れたのか。稽古中のダメ出しから逆算して考えると、これは語り手の声が強くなったからだ。音作りというのも関係性で随分と変わるものだなと思う。

このダメ出しで自分の演奏スタイルもかなり変化した。エフェクトの自作プリセットに頼らず、自分の手と足(エクスプレッションペダル)でダイナミクスを調整するようになった。おかげで語りに対する反応はかなり高くなり、より状況に即した音付けができるようになった。

このスタイルで演奏したのは今のところ、2019年3月の「十三夜」「大つごもり」が最初で、同年6月の「わかれ道」「この子」「闇桜」2度目。まだまだやり始めたばかりだ。

今年9月の「にごりえ」もこのスタイルでやりたいと思っている。我がことながら、どうなるか楽しみだ。


(ちなみに、以上の音作りとは別に、アンプ/スピーカーの変遷にもそれなりの量があるのだが、それはまた別の機会に譲るとする)

(語り作品には省略されたものも複数ある……が、自分用のメモであることから勘弁していただきたい)